アーキビストの眼:“アーカイブする”?
最近、「アーカイブ」・「アーカイブする」ということばを見たり聞いたりすることが多くなりましたが、果たして、本来の「archives(アーカイブズ)」と同じ意味をもっているのでしょうか。今号では、「archives(アーカイブズ)」の定義についてお話ししたいと思います。
日本で一般的に「アーカイブ」といった時、ほとんどの場合が「まとめて(一時的に)保管する」・「分類する」という意味で使われているように思います。Googleメールが典型的な例で、送受信したメールをとにかくまとめて保管するためのフォルダを「アーカイブ」と呼び、そこへメールを移動させることを「アーカイブする」と言っているのをよく耳にします。
実は、IT用語では「アーカイブ」とは、関連する複数のファイルをひとつにまとめて保管することを意味します。どうやら、日本で一般的に使われている「アーカイブ」ということばは、本来の「アーカイブズ(archives)」の意味をIT業界が安易に取り込んだため、本来の意味から離れ一人歩きしてしまったように思います。
本来、「archives(アーカイブズ)」とは、「個人または組織がその活動の中で作成または収受し蓄積した記録のうち、組織運営上、研究上、その他さまざまな利用価値のゆえに永続的に保存されるもの」またはそれらを収蔵保存する施設・スペースを意味します(※1)。学習院大学大学院教授の安藤正人氏は、特に大切なアーカイブズ(「記録史料」)の特徴は、「通常<記録群>として存在し、その中には発生母体組織の機構と機能を反映した体系的な秩序がある」ことであると記しています(※2)。
もう少し簡単に言うと、公的および私的機関・施設で作成された記録には多様な価値があり、アーカイブズは、その中で様々な理由で永続的に保存する価値があると見なされた記録のこと、またそれらを体系的に管理・保存する施設やスペースのことを意味します。1920年以前は、公的な紙媒体の記録のことだけを指しましたが、デジタル記録をはじめとして、様々な媒体の記録が増えるに従い、アーカイブズということばの定義は時代とともに変化していると言えるでしょう。
次回は、欧米における「archives(アーカイブズ)」の定義の変化について、海外のアーキビストの論考をご紹介しながらお話ししたいと思います。
※1. 安藤正人、『アーカイブ事典』(共著)、大阪大学出版会、2003年、p14、p19。
※2. 同書、p19。
ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 白川 栄美
英国国立リヴァプール大学大学院アーカイブズ学・記録管理学専攻修了。国文学研究資料館外来研究員、ロンドンロスチャイルド銀行アーカイブズ短期研修などを経て、現職に至る。日本アーカイブズ学会会員。