分類を考える ~内容分類~
第195号のコラム(「分類の変遷1」)では、形態別分類・資料の種類による分類が使われるようになった背景と、それらの長所・短所について考察しました。今回は「分類の変遷2」として、特に古文書を収集・保存している地方自治体のアーカイブズで採用されている内容分類(主題別分類)について、その歴史と長所・短所をみていきたいと思います。
内容分類(主題別分類)とは、その名のとおり資料の内容(資料に表れた事実)により項目をたて分類する方法を指しています。そもそも図書館は、特定の主題(日本十進分類)により書籍を分類・配架してきました。これに対して、歴史資料に特化した内容分類(主題別分類)がはじめて体系的に提示されたのは、近世庶民史料調査委員会が作成した「近世庶民史料調査分類項目一覧」(以下「一覧」と略記します)です。近世庶民史料調査とは、1948(昭和23)年から開始された文部省による全国的な古文書調査で、貴重な歴史資料がアーカイブズに収集される契機となりました。この調査で提示された「一覧」は、「村政(村の支配に関わる文書)」・「租税(年貢収納に関わる文書)」など58個のキーワード(主題)を一覧化したものです。この「一覧」が対象としたのは、「庶民史料」と銘打たれているとおり、名主・庄屋をつとめた旧家が保存する江戸時代の地方文書(じかたもんじょ)でしたが、歴史資料の分類方法のスタンダードとなりました。さらにこれをベースに様々なパターンの内容分類(主題別分類)が提唱されることになります。
内容分類(主題別分類)が多くのアーカイブズで採用されてきたのは、第一に江戸時代の地方文書のように資料の内容が定型化している場合、主題に当てはめるだけで分類可能だからです。したがって、分類項目の意味を理解していれば、作業効率は高まります。そして第二に、資料群の性格により容易に分類項目を変更することができたからです。たとえば神奈川県史編纂事業の過程で収集された資料は、「一覧」を基礎として、地域性を考慮した独自の項目を追加しています。また、近現代の個人文書・企業文書であれば、「一覧」に依拠することはありませんが、個人の活動・業務など資料群の性格に応じた分類を設定することも可能です。このように内容分類(主題別分類)は、整理者が自由に分類項目を設定できることが利点のひとつといえるでしょう。
しかし、この分類にも当然短所が存在します。それは分類不能な資料への対処です。たとえば、「一覧」には、「雑」という項目が存在します。これはどの項目にも当てはまらない資料を分類する際に使用しますが、もともと定型化した資料を想定しているため、資料群によっては「雑」が増えてしまい、分類の意味をなさないケースが頻発しました。したがって、分類不能な資料に対処するため、主題(項目)を増やすことも行われてきました。ところが、項目設定作業に多大な時間を費やしてしまい、資料を収集したのに結局利用できないという事例も発生しました。もともと利用の利便性を向上させるための分類作業が、利用の阻害要因になってしまったのです。
ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 中村 崇高
県立の公文書館職員として公文書の評価・選別、古文書の整理、展示業務などに従事の後、現職に至る。