電子メールの恐ろしさ
電子メールを巡る最近のトピックスは、何といっても日本振興銀行による金融庁の検査妨害容疑で、7月14日、木村剛前会長が逮捕された事件でしょう。中小企業向け融資を専門にする日本振興銀行が金融庁の立ち入り検査の際に、業務に関わる八百数十通に上る電子メールを意図的に削除し、検査妨害をしたとされる事件ですが、木村前会長はこのメール削除について直接指示していたとみられています。
この事件には文書管理に関連する二つの重要な教訓を含んでいます。
その一つは、電子メールが検察当局や訴訟の原告側から、証拠記録として狙われやすいということです。なぜでしょうか。そのわけは紙の正式文書と違い、電子メール文書は比較的気楽な気持ちで書かれるため、ついつい本音が出やすいということなのです。つまり検察や原告側の欲しい情報、有利になる情報が電子メールの中に存在することが多いのです。
しかも最近はかなり重要な情報のやり取りを、紙の文書を交換することなく電子メールのやり取りで済ませることが、社内・社外を通じて多くなっている筈です。しかしながら現状、日本では電子メールを文書・記録管理の重要な対象として、きちんと管理しているところはほとんどありません。もちろん電子メールを情報セキュリティの一環として、ウイルス対策などを中心とした情報技術的な管理を徹底しているところは沢山あります。しかしながら文書管理の一環として、内容に応じた分類や保存期間管理を適切に行っているところはあまり見かけません。この点は、ほとんどの企業、官庁が電子メール管理規則(email policy)持っているアメリカとの大きな違いです。早急に解決すべき課題の一つといって良いのではないでしょうか。
もう一つの教訓は、監督官庁等の検査・調査が始まる場合、もしくは訴訟に巻き込まれそうになった場合には、関係書類等を廃棄、あるいは隠蔽、改ざん等の不正な行為を行ってはならないということです。たとえ、その間にその文書の保存期間が満了しようとも、これらの検査、調査、訴訟が終了するまでは、その文書は廃棄できません。これは文書管理の世界ではごく当たり前の原則です。同様の金融庁の検査忌避事件としては、2004年に旧UFJ銀行が不良債権処理の関連資料を隠蔽し、元副頭取ら幹部3名が有罪、法人としても罰金9000万円の判決が下ったことがありました。

アーカイブ研究所所長 小谷允志
記録管理学会前会長、ARMA(国際記録者管理協会)東京支部顧問、日本アーカイブズ学会会員、日本経営協会参与、ISO/TC46/SC11(記録管理・アーカイブズ部門)国内委員。
著書に『今、なぜ記録管理なのか=記録管理のパラダイムシフト』(日外アソシエーツ)など。