知的生産のためのアーカイブ
梅棹忠夫の整理術
梅棹忠夫の整理術
先日、大阪の万博記念公園内にある国立民族学博物館の「ウメサオタダオ展」に行きました。
たくさんの見学者で館内がにぎわっており、人々の関心の高さを実感しました。
今回のコラムでは、梅棹忠夫が残した知的生産(知的情報の生産)のための資料や道具の展示物を通して、彼の考えた記録整理方法について紹介します。
梅棹忠夫は民族学者、比較文明学者のパイオニアとして名を馳せたと同時に、国立民族学博物館を創設し初代館長を務めました。今回の展示で特徴的だったのは、数々の研究実績の公開を展示の趣旨とするのではなく、梅棹自身が構築したアーカイブズを紹介することによって、彼の思想の先見性や革新性を伝えることに重点が置かれていたことです。
梅棹が構築したアーカイブズ―それは徹底した記録の整理術の積み重ねで出来上がった資料群です。名著とされる『知的生産の技術』(岩波書店、1969年)ができるまでの、カード、「こざね」(メモの連なり)、直筆原稿などすべてが展示されておりましたが、特に同書で紹介された「B6カード」による情報の整理法はユニークです。
キャビネットに収められたこのカードの外観は、図書館の図書カードに似ています。「知的生産」のためには、記録した事実をばらばらにして再構築する、それによって思いがけない発見やまだ得ていない事実が見えてくると彼は言います。脳内の知的な作業をカードによって「外化」「可視化」するために、ノートから組み換え可能なカードの整理方法へ移行していった彼の思考には説得力があります。同時に、これは情報に対する思想を理解した上でのデータベース構築の考え方にも共通しています。
『知的生産の技術』では、「日本人は、記録軽視、成果第一主義で、実質的で、たいへんけっこうなのだが、社会的蓄積がきかないという大欠点がある。」と指摘しています。現代の記録管理に通ずる問題点を1960年代に早くも見抜き、さらに諸外国の「アルキーフ(文書館)」の存在にも着目しています。
新しい技術や技法が次々に生まれ、これからも変化していくでしょう。しかし、技術以上に、知的な仕事を生み出すための基本的な考え方・思想には普遍的な要素があるはずです。彼の整理術を知ることによって、知的生産のためのアーカイブを考えさせられました。
国立民族学博物館 特別展「ウメサオタダオ展」
ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 小根山 美鈴
都内の大学史編さん室、独立行政法人の研究所でアーカイブズの業務に従事の後、現職に至る。日本アーカイブズ学会会員。