記録と通信の技術革新
先日(毎日新聞8月16日夕刊)、国会での速記に、音声変換システムが導入されたと報じられました。そもそも、速記はこの国会の議事録を記録するために考案され、明治23年の第一回帝国議会から採用されて、さまざまな改良が加えられて今日に至っています。
速記では、交わされる言葉を特殊な記号に代えて書き取り、後で文字に直します。裁判所にも裁判所速記官という専門スタッフがいて、こちらは速記用の専用タイプライターを使って記録を取り、やはり後で文字に直します。
いずれも特殊な訓練が必要で、それぞれ養成所を設けて2年程度の教育訓練を行って速記官を養成してきました。しかし、国会では2005年に、裁判所では1998年に速記官の養成・採用を停止しました。
パソコンの利用が進み、ようやくコンピュータシステムによる音声の自動変換が実用化されたのです。
遠距離通信の主力だったモールス符号による通信も、2000年までにほぼ廃止されました。モールス符号は短点「トン」と長点「ツー」を組み合わせて文字や数字を表現し、これを一文字ずつ送るもので、音だけでなく発光信号でもやりとりができるので、とくに洋上での通信に不可欠なものでした。
モールス符号による通信を担うため船舶通信士が世界中で養成されていました。しかし、通信技術が進歩して、衛星を利用した無線電話が普及すると、モールス通信はあっさりと過去のものになりました。
人々は、いかに正確に、また迅速に、意思の疎通をし記録を残すかということに、たいへんな力を注いできました。
そしてこれは、近年のめざましいIT技術の進歩によって、大きな変換期を迎えました。新しい技術の力で、記録や通信の正確性、迅速性が一層進んだものになることが期待されます。
ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 中川 洋
歴史系博物館学芸員として資料の収集・管理や展示・教育業務に携わり、現職に就く。
現在は、企業および学園アーカイブのコンサルティング、プランニング、マネジメントに従事。