消え行く紙媒体-大学の現場から
アーカイブの仕事で大学へ行く機会が多くありますが、昨今の大学の変わりようには目を瞠るものがあります。
どこも校舎の建て替えや高層化がすすんで、キャンパスがオシャレできれいになっていることに驚かされます。ホテルのロビーかと見紛うような立派なエントランスを持つ大学、著名なレストランが開店しているキャンパスもあります。
見た目だけでなく、教学や学生生活も大きく変わっています。
多くの大学では、学生はノートパソコンやスマートフォンを片手に学内を闊歩し、教室はもちろん図書館でも食堂でも無線LANが使えるようになっています。
講義の資料もネットで配信され、レポートもメールで送るのがあたりまえになっています。
かつては、分厚いシラバス(講義要綱)片手に、大きな時間割表を参照しながら受講登録をしたものですが、今はほとんどの大学で、インターネット経由で閲覧・登録を行っています。
また、掲示板の前で休講や教室変更のチェックをするという光景はすでに過去のものとなっており、それらは、メールで直接通知されるようになっています。
今の大学生は、ほぼ全員が平成生まれで、子供のころから携帯やネットに親しんでおり、このような体制にまったく抵抗がありません。
紙媒体の廃止は「エコ」の風潮にもマッチしているうえ、トータルでコストダウンも図れるということで双方にとってメリットがあるようです。
ある大学の史料編纂室の方が「とにかく紙媒体がどんどんなくなっていて情報収集に苦労している」とおっしゃっていました。企業でも大学でも、アーカイブのことまで考慮されずに電子化が先行するというのが一般的な傾向です。
ネットに配信された情報を将来にわたって残すのは容易ではありません。
シラバスひとつとっても、全学部・全課程のデータを毎年度、細大漏らさず収集するには、気の遠くなるような作業が必要です。
サーバー上に無数にある各種の電子データを取捨選択し、収集し、蓄積し、いつでも取り出せるような仕組みを作ることは、電子化が進めば進むほど難しくなっていると言ってよいでしょう。
今は、目先の利便性やコストが最優先されて、無批判に「ネット社会」化がすすめられていますが、資料として「残す」ことの意義や必要性について、また残すための方法について、もっと論議があるべきではないかと考えます。

ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 中川 洋
歴史系博物館学芸員として資料の収集・管理や展示・教育業務に携わり、現職に就く。
現在は、企業および学園アーカイブのコンサルティング、プランニング、マネジメントに従事。