アーキビストの眼:
『archives(アーカイブズ)』の定義の変化
『archives(アーカイブズ)』の定義の変化
以前に、「アーカイブズ」の定義は時代と共に変化してきていると述べました。そのことについて、海外のアーキビストの論考をご紹介しながら考えていきたいと思います。
1950年代以前は、記録とアーカイブの関係は明確に区別されておらず、アーカイブズ=「歴史的文書」という概念はなかったようです。
例えば、1898年にSamuel Muller他は、「アーカイブズは行政機関で作成および受領される文書である」と述べています(※1)。
1922年には、「アーカイブズ学の父」的な存在であるSir Hilary Jenkinsonが、著書の中で、「アーカイブズに属するものは、公文書・私文書ともに、(記録作成の母体組織の)業務や活動過程の中で作成・使用された文書であり、そのため、記録の作成者が自らの情報として自らが保存すべきである」と、述べています(※2)。
つまり、アーカイブズは、後世の研究や興味のために作成・保存されるのではなく、記録の作成者のために保存されるべきものであると考えられていたのです。
1950年代後半になって、アーカイブズと記録の関係に変化が生じてきます。
1956年に、Theodore Schellenbergは、著書の中で、アーカイブズを「永続保存の価値があると判断された記録」と定義づけています(※3)。
また、アーカイブの価値は、「一次的価値(primary value)」―作成者にとって業務・法務・財務上必要な“記録”であること―と「二次的価値(secondary value)」―第三者および将来の研究にとっての証拠的・情報的価値―があると主張しました。
現在、アーカイブズの「歴史的価値」と称される価値は、この時点で新しい概念として位置づけられたと言えます。
何を収集し、何を保存するかという方針は、アーカイブズを維持・管理していく上で最も重要な要素のひとつです。
異なる定義を3つご紹介しましたが、その方針は、アーカイブズをどう定義づけるかによって、大きく変わってくることがわかります。
そのため、アーカイブズ構築を具体化するにあたっては、まず、自らの組織が目指すアーカイブズがどういう性格のものであるかを明確にして、それをアーカイブズの構築および管理方針に反映させる必要があります。
1970年代以降、「アーカイブズ」の定義の変化はさらに多様化・複雑化していきます。
次回も、海外の論考を紹介しながら、「アーカイブズ」とは何かを考えていきたいと思います。
※1. Muller, S., Feith, J., and R. Fruin, Manual for the Arrangement and Description of Archives, 1968, H. W. Wilson, Co., NY.
※2. Jenkinson, C. H., A Manual of Archive Administration, 1965, Lund Humphries, London; http://archive.org/details/manualofarchivea00jenkuoft (2012年12月20日アクセス).
※3. Schellenberg, T. R., Modern Archives: Principles and Techniques, 1956, University of Chicago Press, Chicago.

ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 白川 栄美
英国国立リヴァプール大学大学院アーカイブズ学・記録管理学専攻修了。国文学研究資料館外来研究員、ロンドンロスチャイルド銀行アーカイブズ短期研修などを経て、現職に至る。日本アーカイブズ学会会員。