映像フィルムの保存をめぐって
私たちアーキビストが愛読しているメールマガジンのひとつに、坂口貴弘さんが発行している「Daily Searchivist」があります。
記録管理、文書管理、アーカイブズに関するweb上や新聞・雑誌などの情報をきめ細かく収集し、厳選して週一回配信しているもので、貴重な情報源です。
2008年4月の創刊以来、休みなく刊行されており、まもなく250号になります。長らくお世話になっていますので、改めて敬意と感謝の意を表したいと思います。
「Daily Searchivist」245号で東京国立近代美術館フィルムセンターが「映画保存とフィルム・アーカイブ活動の現状に関するQ&A」を公開したという情報が発信されました。
ちょうどあるお客様のところで、古い16mm、35mmフィルムと対峙していたところでしたので、早速参照してみました。
私たちは、お客様のところに8mm~35mmの古いフィルムがあると、まず電子化をお奨めしますが、この「Q&A」では、「フィルムは、適正な温度と湿度の環境下であれば、数百年安定的に保存できることが、実験によってあきらか」なので、電子化よりも適正な環境下での保存を推奨しています。
もっともフィルムセンターでの保存環境は「温度2~10℃、相対湿度35~40%の環境下で管理された専用保存庫」とあり、一私企業でこの環境を維持し続けることは、困難です。
しかし、ここで指摘している「デジタル保存のリスク」と、「デジタル化を推進することと引きかえにフィルムを廃棄してしまうことは、長期保存の観点からきわめて問題が大きい」という主張には共感します。
電子化は両刃の剣であり、アナログの優位性も正しく評価しなくてはなりません。また、将来「より良い」保存方法が、出てくるとも考え られるのです。
一方で、フィルムの酸化によりひどい酢酸臭を放つ(ビネガーシンドロームといわれます)フィルムに手を焼いている企業・団体が多数あるのも事実です。
当面は、デジタル化による共有・活用をはかりつつ、フィルム現物は冷暗所で永年保存する、またはしかるべきフィルム・アーカイブに寄託・寄贈するというような、現実的かつ資料保存のために最適なコーディネートが、私たちアーキビストに課された任務だと考えています。

ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 中川 洋
歴史系博物館学芸員として資料の収集・管理や展示・教育業務に携わり、現職に就く。
現在は、企業および学園アーカイブのコンサルティング、プランニング、マネジメントに従事。