アーキビストの眼:企業アーカイブズ、再考
企業アーカイブズ・資料館や企業ミュージアムの数は、近年、増えています。
先日、企業史料協議会総会が行われ、創業明治34年の株式会社中村屋の長峰一眞様が、基調講演をされました。その講演を聞き、企業アーカイブズについて、改めて考えさせられました。
企業アーカイブズとは、企業の情報と歴史の「silo(貯蔵庫)」であり、ありとあらゆるインプット(アイデア・知識・経験など)が詰まっている宝庫であると言えます。
それは言い換えれば、「多様な価値を持つ経営資産」(※1)であるのです。
この企業アーカイブズは、様々な方法でアウトプットすることができて、そのアウトプットを利用し、知識・経験・文化を自社へ、また、社会へ還元することは、企業アーカイブズの重要な役割のひとつです。
代表的なアウトプットの形には、社史や企業博物館があります。
多くの企業が社史を作成し、社員教育に利用しています。先述の講演の中で、株式会社中村屋では、歴史(= 「100年史」)から経営学を学び、社員に実践してもらうというような社員教育を2000年から実施しているという事例が紹介されました(※2)。
同様 に、昨年10月に企業資料館をオープンした株式会社LIXILグループでは、統合された6社の知識と歴史を集めた資料館を、新人社員の教育だけでなく、統 合後の社員の相互理解を深める場としても役立てています(※3)。
また、HPや広告などの媒体や周年記念イベントを通し、ブランド力向上を目指している企業も少なくありません。イギリスのドラッグストアチェーン店で有名なブーツUK社では、160周年記念キャンペーンの一環として、80年以上さかのぼり過去に販売された商品やパッケージを展示することで、自社商品のPRに成功したという事例があります(※4)。
基調講演の最後に長峰氏 も述べられていましたが、今、多くの企業が、「暗黙知」を「形式知」に変換する試みを行っています。
しかし、やはり変換は容易ではないというのが現状のようです。
私は、「暗黙知」というのは、企業アーカイブズに蓄積された資料・記録に、なんらかの形で反映されていると言えると考えます。
企業アーカイブズとは、企業が産みだした知識・文化の継承そのものです。
「暗黙知」を文書化することに躍起になっている企業が多いようですが、企業資料を読み解き、様々な形でアウトプットしていることで、「形式知」に変換していると考えられないでしょうか。
そのためには、やはり、現用文書から非現用 文書まで包括的に、かつ持続的に、一元管理・保存をすることが必要だと考えます。
今日作成された資料は、50年後には「アーカイブズ」となるのです。
自社アーカイブズの構築をお考えの際は、古い資料だけでなく、ぜひ、現在お使いの資料も含めて、方針・ルールづくりをされることをお奨めいたします。
*1. 松崎裕子、"資産としてのビジネスアーカイブズ:付加価値を生み出す活用の必要性と課題"、「情報の科学と技術」、62巻10号(2012)、p.422.
*2. 企業史料協議会 平成25年度第32回会員総会 基調講演より、2013年5月20日
*3. 企業史料協議会主催、「LIXIL資料館」見学・研究会より、2013年3月8日。
*4. Logan, Katey and Charlotte McCarthy, "アーカイブズを展示することによる商業上の効果"、「世界のビジネス・アーカイブズ:企業価値の源泉」、公益財団法人渋沢栄一記念財団実業史研究情報センター編、2012年、日外アソシエーツ、pp.83-86.

ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 白川 栄美
英国国立リヴァプール大学大学院アーカイブズ学・記録管理学専攻修了。国文学研究資料館外来研究員、ロンドンロスチャイルド銀行アーカイブズ短期研修などを経て、現職に至る。日本アーカイブズ学会会員。