記録管理・アーカイブズの専門職問題
この度、日本アーカイブズ学会が創設したアーキビストの資格認定制度による第1回「登録アーキビスト」38名が誕生しました(2013/3)。
これはわが国のアーカイブズの歴史において記念すべき出来事であり、また慶賀すべきことでもあります。新しく「登録アーキビスト」になられた方々の今後の活躍が期待されます。
しかしながら、日本の記録管理・アーカイブズの専門職に関しては実は大きな問題があるのです。
これは私が、色々な機会に主張してきたことなのですが、わが国では現用の記録管理、非現用のアーカイブズともに記録に係わる専門職の職能が確立していないという問題です。
言い換えるとわが国の組織は官民ともに、これらの専門職を採用し、あるいは育成するという意思が希薄だということです。
確かにわが国でも、他業務と兼務の担当者、あるいは2~3年で異動してしまう担当者、非正規職員の担当者はいるかも知れませんが、専任の、本当の意味でのプロフェショナルの担当者となるとその数は極めて少数です。
この点は先進諸国の記録管理・アーカイブズとの大きな違いとなっています。
先進諸国では官民を問わず、ある程度の規模の組織においては必ず現用の記録管理ではレコードマネジャー、非現用のアーカイブズではアーキビストという専任の専門職が存在します(ヨーロッパのようにアーキビストが現用・非現用の両分野を担当するところもありますが)。
つまりこの分野においては、良い法律あるいはルールが必要なことは言うまでもありませんが、その法律・ルールを運用する体制が何よりも大切なのです。これなくしては、いくら良いルールが出来たとしても絵に描いた餅になりかねません。
このような点を考えると、最初に述べた「登録アーキビスト」の誕生も手放しでは喜べなくなってしまうのです。これを機会に、日本の組織のトップマネジメントの方々に、現用、非現用を問わず記録、あるいは記録の管理についての重要性を認識頂き、真の意味の専門職の育成、活用をぜひお願いしたいと思う次第です。
(注)この専門職問題につき詳しくは、日本アーカイブズ学会発行「アーカイブズ学研究」No.16号(2013.3)の拙稿『「アーキビスト資格制度の実現に向けて:学会提案を議論するPart2」参加記』をご参照下さい。

アーカイブ研究所所長 小谷允志
記録管理学会前会長、ARMA(国際記録者管理協会)東京支部顧問、日本アーカイブズ学会会員、日本経営協会参与、ISO/TC46/SC11(記録管理・アーカイブズ部門)国内委員。
著書に『今、なぜ記録管理なのか=記録管理のパラダイムシフト』(日外アソシエーツ)など。