「宇土市の文書管理」
先日、わが国初の文書管理条例を制定したことで有名な宇土市(熊本県)を訪問する機会がありました。
2001年に制定されたその条例の第1条には次のように記されています。「この条例は、地方自治の本旨にのっとり、市が保有する情報は市民の財産であるという基本的立場に立ち、情報公開制度の目的の達成のため、及び行政機関等の政策形成能力の向上のために、(略)市が保有する文書の適正な管理を図り、もって公正かつ民主的な市政の発展に寄与することを目的とする」。
何とも素晴らしい目的規定ではないでしょうか。やはり情報公開の制度化には文書管理が不可欠との認識から、情報公開条例に先がけてファイリングシステムを導入し、情報公開条例制定の2年後には文書管理を条例化しているところが先駆的です。
国もそうですが、これまで文書管理改善なしに情報公開の制度化に入る自治体が多かったのです。宇土市では、「情報公開と文書管理は車の両輪」という考え方が確実に実行されているわけです。
その他、宇土市における文書管理の特徴を挙げますと、文書管理条例の対象文書を情報公開条例の「組織共用文書」より広く設定していること、文書作成義務を明確にしたこと、永年保存という区分をなくし、保存期間が満了となった行政文書は廃棄できるようにしたこと、教育委員会文化課による歴史的資料の評価選別の仕組み、などがあります。
しかし特筆すべきは文書管理の維持推進に対する取り組みです。まず毎月21日を「文書管理の日」と定め、各課で文書管理状況を点検するようになっている他、年2回の文書管理研修(講師は総務課係長)、年2回の監査チームによる現場確認(2月・8月に実施、1回に4日位を充当、後期は各課のランキングを公表)など、徹底した文書管理への意識付けが行われている点です。
公文書管理法制定前の条例化なので、歴史公文書に対する対応が不十分という難はありますが、現用の文書管理に関し職員全員で取り組む姿勢は実に素晴らしいものがあります。

アーカイブ研究所所長 小谷允志
記録管理学会前会長、ARMA(国際記録者管理協会)東京支部顧問、日本アーカイブズ学会会員、日本経営協会参与、ISO/TC46/SC11(記録管理・アーカイブズ部門)国内委員。
著書に『今、なぜ記録管理なのか=記録管理のパラダイムシフト』(日外アソシエーツ)など。