「アーカイブ」の意味
先日、日経新聞の土曜特集「何でもランキング」で「知ってるようで知らないカタカナ語」という特集が掲載されました(注)。
ここで堂々の?第2位にランクされたのが「アーカイブ」です(ちなみに第1位は「オンデマンド」でした)。残念に思ったのは、やはり「アーカイブ」がこれほど一般に知られていない言葉なのかということですが、更に残念だったのは、そこで説明されていた「アーカイブ」の定義です。ここで「アーカイブ」は「文書やデータなどの資料を収集し、保存したもの。その保管施設を意味することもある。アーカイブズともいう。」と定義されており、国立国語研究所が提案する言い換え例として、「保存記録」「記録保存館」が添えられていました。実を言うと、この定義は半分正しく、半分は正しくないのです。
なぜかというと「アーカイブ」「アーカイブズ」は、元もと、歴史的に重要な資料(史料)を収集し、保存する」という意味であり、単純に資料を保存するという意味ではないからです。従って、「アーカイブ」「アーカイブズ」における「保存」は、通常「永久保存」を意味し、一時的な保存とは区別されています。それゆえ、海外で「アーカイブ記録」は「Historical Records」とか「Permanent Records」などといわれます。日経の定義では、この点が充分説明されていなかったことが、残念に思った理由です。その意味では国立国語研究所の言い換え例も正確とはいえないわけです。
但し、「アーカイブズ」の動詞形である「アーカイブ」の方は、元の意味から転じて、単なる「文書やデータなどの資料の収集、保存」の意味で使われることがあるのも事実です。例えば、最近はやりの「デジタル・アーカイブ」という表現ですが、これは「歴史的に重要な資料の収集、保存」とは関係なく、むしろ「文書や絵画等をデジタル化し、インターネット上で公開する」という意味で使われている傾向があります。
言葉は生きものといわれ、意味が変化することは珍しくありませんが、やはり本来の、正確な「アーカイブ」の意味を知った上で、この言葉を使って欲しいものです。
(注)2014.10.18付日経新聞:「NIKKEIプラス1」

アーカイブ研究所所長 小谷允志
記録管理学会前会長、ARMA(国際記録者管理協会)東京支部顧問、日本アーカイブズ学会会員、日本経営協会参与、ISO/TC46/SC11(記録管理・アーカイブズ部門)国内委員。
著書に『今、なぜ記録管理なのか=記録管理のパラダイムシフト』(日外アソシエーツ)など。