「米国アーキビストの実態」
このコラムにおいても何回か、記録管理・アーカイブズの専門職問題について述べてきましたが、最近、おもしろい調査資料を見つけました。それは米国アーキビスト協会(SAA)が2015年、会員アーキビストの実態を調査した資料です。まず驚くのは全体的なアーキビスト人口の多さですが、次に驚くのは調査に回答したアーキビスト3976名中、77%の3048名がフルタイムの正規職員だということです。全体の人数には学生や引退した人等が500名ほど含まれていますので、実質的には実に86%が正規職員ということになります。日本ではアーキビストに関する正確なデータはありませんが、この割合は日米で逆転しているように思われます。つまり日本では正規職員は、せいぜい3割で7割は非正規、あるいは期限付き雇用と思われます。この国では、アーキビストの職能が確立しておらず、いかにその地位が不安定であるかが分ります。
次に米国アーキビストの勤務先はどのような組織なのでしょうか。多い順に挙げると学術機関41%、行政機関23%、非営利組織20%、営利組織8%となっています。日本では行政機関所属のアーキビストが一番多いのではないでしょうか。またアーキビストの性別は女性が圧倒的に多く73%、男性は25%となっています。日本でも比較的、女性が活躍する分野ではありますが、ここまで大きな男女差はありません。専門資格に関しては全体の25%が有資格者で、その内の76%がCertified Archivist、5%がCertified Records Manager、27%がその他資格となっています。
興味深いのはアーキビストの年収です。一番多いのが、4万~5万ドル未満で21%、続いて5万ドル~6万ドル未満が18%、以下、3万ドル~4万ドル未満14%、8万ドル以上13%、6万ドル~7万ドル未満12%、7万ドル~8万ドル未満8%、2万ドル~3万ドル未満7%、などとなっています。また彼の地では退職金、有給休暇、各種保険等のベネフィットについても手厚く支給されているようです。日本のアーキビストは非正規職員が多いことにも関連しますが、米国に比べると待遇面ではかなり低いのではないでしょうか。色々と考えさせられるデータですが、日本でも一度、正確な実態を調査する必要がありますね。

アーカイブ研究所所長 小谷允志
記録管理学会前会長、ARMA(国際記録者管理協会)東京支部顧問、日本アーカイブズ学会会員、日本経営協会参与、ISO/TC46/SC11(記録管理・アーカイブズ部門)国内委員。
著書に『今、なぜ記録管理なのか=記録管理のパラダイムシフト』(日外アソシエーツ)など。