身近にある「遺産」
弊社のアーカイブサポートの特徴の一つは、紙の資料(文書類)だけでなく、各種のモノ資料についても、アーカイブズ、コレクションの一部を構成する貴重な資料として、整理や保存、活用に向けたサポートをしていることです。モノ資料は、製品や記念品類、広告宣伝物、備品や工具、制服といったものに至るまで多種多様で、系統的網羅的に残すのは難しいものです。また、その歴史的価値について、当事者がなかなか気がつかなかったり、ありふれたものだと思われて、処分されてしまうことも少なくありません。
国立科学博物館の産業技術史資料情報センターでは、2008年から「重要科学技術史資料」いわゆる「未来技術遺産」の選定を開始しました。同センターでは、「20世紀から21世紀にかけ、産業構造の変化、生産拠点の海外移転、戦後発展を支えた技術者の高齢化などにより、先人たちの貴重な経験を物語る様々な事物は急激に失われつつあります。また、世界的に見ても特筆すべき発明や開発品である実物資料が急速に姿を消しつつあります」という危機感からこの事業に取り組み、現在では225件が登録されています。今年は、合成洗剤の「トップ」や重機(油圧ショベル)のユンボなどが登録されました。これまでにレンズ付きフィルム「写ルンです」や、ポータブルステレオ録音機「カセットデンスケ」、接着剤「セメダインC」など様々な分野の製品が登録されました。これらは、最先端の技術を結集して生産された優れた製品であり、それゆえに長く愛用され、時代に名を残してきたということなのでしょう。身近にある、なんでもないようなものが、貴重な遺産であるという、ひとつの好例と言えるのではないでしょうか。

ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 中川 洋
歴史系博物館学芸員として資料の収集・管理や展示・教育業務に携わり、現職に就く。
現在は、企業および学園アーカイブのコンサルティング、プランニング、マネジメントに従事。