国立公文書館長がビジネス・アーカイブズを語る!!
国立公文書館の加藤丈夫館長は、2013年の就任当初から日本のビジネス・アーカイブズについて様々な場で発言されています。国立公文書館の館長が公的アーカイブズだけでなく、ビジネス・アーカイブズに関心をもち、積極的な情報発信を繰り返していることは、これまでになかったことだと思います。加藤氏がビジネス・アーカイブズに関心をもつ背景には、富士電機株式会社の社長・会長をつとめられたという「企業人」としての活動があります。長年、企業経営に携わってきたからこそ、日本のビジネス・アーカイブズの強み・弱みを認識されているのでしょう。今回のコラムでは、加藤氏が、ICA(International Council on Archives:国際公文書館会議)のソウル大会において行った「日本的なアーカイブズの伝統とグローバル化時代の新たな要求との調和~アーカイブズの充実に向けた企業と国の取り組み~」と題する講演の内容を紹介します。
この講演は、①日本におけるビジネス・アーカイブズの現状、②企業におけるアカウンタビリティ(説明責任)の重要性とアーカイブズの役割、③日本のビジネス・アーカイブズへの提言、④アーカイブズに対する国家的取り組みにまとめることができます。このなかで私が特に注目したいのは、日本企業の特徴ともいえる「社史」編纂が企業活動のなかで重要な役割を果たしうることを指摘していることです。
加藤氏は、グローバル化の進展により、相互理解のツールとして、「社史」と企業活動の証拠となる記録の存在がきわめて重要となってくると主張しています。したがって、「社史」編纂の過程で収集した資料だけでなく、アカウンタビリティを担保する記録類をも管理するビジネス・アーカイブズの必要性を説いています。加藤氏の講演は、アカウンタビリティの確保のためにアーカイブズが必須であることを強調するものですが、「社史」編纂事業もまたビジネス・アーカイブズ構築の契機となることも教えてくれます。
ただ、講演のなかでも触れられているように、日本社会においてビジネス・アーカイブズの必要性が充分認識されていないことはいうまでもありません。それはアカウンタビリティ確保のためのアーカイブズの必要性がしばしば主張されているにもかかわらず、アーカイブズが企業に定着しないことからもうかがえます。したがって、加藤氏は企業トップの努力を求めています。もちろん企業トップの理解が必要なことはいうまでもありませんが、こうした努力だけでなく、私たち自身も記録類がすべての活動の証拠となるというもっとも根本的な考え方を再認識しなければならないのではないでしょうか。
加藤氏の講演は、価値観が多様化する現代社会において、アーカイブズの重要性にあらためて思いを馳せるきっかけとなります。
【関連資料】
・http://www.archives.go.jp/news/pdf/ica2016_jp_09.pdf(2016年10月26日閲覧)
・「コラム:ビジネス・アーカイブズの充実に向けて」
(日本取締役協会:2014年5月15日・2016年10月26日閲覧)
http://www.jacd.jp/news/column-manager/140515_post-137.html

ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 中村 崇高
県立の公文書館職員として公文書の評価・選別、古文書の整理、展示業務などに従事の後、現職に至る。