大学キャンパスの歴史遺産
歴史を、今日につたえるものは文書資料ばかりではありません。歴史あるモノ資料や建築物、土木構造物なども雄弁な歴史の語り部です。私は、仕事でさまざまな大学を訪問していますが、歴史ある重厚な校舎の佇まいに、社寺や城跡を訪れた時のような深い歴史の重みを感じることがあります。
関東では慶応義塾大学や明治学院大学、関西では同志社大学や龍谷大学のキャンパスには国の重要文化財に指定されている校舎が複数あり、独特の歴史的空間をかたち作っています。ひとつひとつを観察すると明治期の煉瓦、昭和初期のスクラッチタイルなど、各時代独特のデザインや建築様式が見てとれるほか、船のブリッジを模した塔屋のある校舎(国指定登録有形文化財)や練習船「明治丸」(重文)が保存されている東京海洋大学、酪農経営を実地に教えたモデルバーン(重文)が現存する北海道大学など、その大学に課せられた使命や個性がにじみ出ています。また、旧東京市麻布区役所の庁舎が移築されている日本獣医生命科学大学、旧久邇宮邸の建物が遺る聖心女子大学など、きわめて貴重な建築物に出会うこともあります。ミッションスクールの歴史的建造物と言えばヴォーリズがよく知られています。キリスト教伝道のため明治時代に来日し、のちに日本に帰化したアメリカ人ヴォーリズは、全国の数多くのミッションスクールの設計を手掛けており、その多くは今も遺され、古き佳き時代の空気を感じさせてくれます。
近年、大学キャンパスは急速に改築がすすみ、高級ホテルと見まがうようなおしゃれな高層ビルにすることが流行っていますが、それによって学校ごとの個性は薄まってきているように感じます。歴史的建造物は、学園の理念を具現化し、学園のシンボルとして輝きを放っています。街のランドマークとして、また貴重な歴史遺産として次世代に継承していってほしいものです。

ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 中川 洋
歴史系博物館学芸員として資料の収集・管理や展示・教育業務に携わり、現職に就く。
現在は、企業および学園アーカイブのコンサルティング、プランニング、マネジメントに従事。