分類の変遷3
ISAD(G)(国際標準:記録史料記述の一般原則)を援用した分類方法について
ISAD(G)(国際標準:記録史料記述の一般原則)を援用した分類方法について
第199号のコラム(「分類の変遷~内容分類~」)では、資料の内容による分類(内容分類)が一般化した背景と、それらの長所・短所を紹介しました。今回は「分類の変遷3」として、2000年代から歴史資料保存機関で採用されるようになったISAD(G)を援用した分類の方法についてみていきたいと思います。
今回取り上げる分類方法の特徴は、資料群の構造分析の結果を反映させていることです。資料群の構造をふまえた目録作成の重要性をはじめて説いたのは、鎌田永吉氏です。鎌田氏は、江戸時代(近世)の史料を利用者に提供するための「一応の」目安を提示するために、史料を作成した当時の役割・機能を十分反映した形の分類が必要であることを指摘しました。この指摘は、資料群の性格をほとんど考慮せず、既定の分類を適用しようとする内容分類(主題別分類)への批判でもあったのです。
こうした指摘をうけて、1980年代から資料群の内部構造の再構成を目的とした分類方法が研究されていきました。特に国文学研究資料館史料館は、この分野で先駆的な目録類を発表しています。同館が作成した近世文書の目録は、鎌田氏の考え方だけでなくISAD(G)の影響もうけています。
ISAD(G)とは、1994年にICA(International Council on Archives)が作成した記録史料(歴史資料)の記述に関する国際標準です。ここでいう「記述」とは、利用者が必要とする資料(群)の情報を提供することです。この国際標準は「記述」に際して、資料群をフォンド(グループ)-シリーズ-アイテムという各階層にわけて把握しようとしていることが特徴です。そして、資料群の特性に応じて各階層に付与されたキーワードが分類項目となります。この作業により、利用者が目録を手に取れば、資料群の性格をふまえて個別の史料に当たることが可能となるのです。
ここで各階層の説明をしておきましょう。フォンド(グループ)は、同一の出所をもった資料群全体を指しています。ISAD(G)を援用した分類を行う場合、フォンドの下にサブ・フォンド(サブ・グループ)を設定します。これはある一定以上の組織の場合資料群内部の組織体の名称を、個人の場合その職務・役割を指しています。シリーズは、内部組織の役割・個人の職掌を指しています。さらに、場合によってはサブ・シリーズを設定することもあります。この分類を採用する場合は、①目録作成の段階から組織体の構造を把握しようとすること、②組織の職掌・個人の役割を資料上に表れた各種情報から読み取ることが必要になります。
ISAD(G)を援用した分類方法は、資料群の特徴を利用者に示す有効な手段と認識され、2000年代以降全国のアーカイブズで少しずつ採用され、実践例も多く蓄積されています。しかし、この方法に対する批判も少なからず存在します。この点については、次回のコラムで取り上げていきたいと思います。
【参考文献】
国文学研究資料館史料館編『アーカイブズの科学』(柏書房、2003年)

ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 中村 崇高
県立の公文書館職員として公文書の評価・選別、古文書の整理、展示業務などに従事の後、現職に至る。