国立公文書館「アーキビストの職務基準書」(2017年12月版)を読んで
以前から国立公文書館が検討をすすめていた「アーキビストの職務基準書」(以下、「職務基準書」と略記します)が2018年にHPで公開されました(下記URLを参照のこと)。アーキビストがどのような仕事をする専門職なのか、また職務遂行にあたっていかなる能力が必要なのかは、関係諸団体で議論されてきましたし、様々な立場の方による豊富な蓄積が存在します。そうしたなかで出された「職務基準書」の画期的な点は、国立公文書館がアーキビストの国家資格化に本格的に乗り出したということです。そこで今回のコラムは、「職務基準書」の内容をかいつまんで紹介していきたいと思います。
「職務基準書」は「趣旨」、「用語の説明について」、「アーキビストの使命」、「アーキビストの倫理と基本姿勢」、「アーキビストの職務」、「必要とされる知識・技能」、「備考」に別表1~3から構成されています。そもそも「職務基準書」のなかでアーキビストはいかなる職務を担う存在と位置づけられているのでしょうか。
「アーキビストの使命」においてアーキビストとは、「国民共有の知的資源である公文書等の適正な管理を支え…専門職」と定義されています。また、アーキビストが「公文書等」を取り扱う存在であることがわかります。なお、「公文書等」とは「国又は地方公共団体が保管する公文書その他」(「公文書館法」第2条)です。しかし、「職務基準」は公文書だけでなく、地方公共団体のアーカイブズが収集対象としている民間所在の古文書・私文書の受入についても考慮されています。
「アーキビストの倫理と基本姿勢」においては、ICAにより採択された「アーキビストの倫理綱領」をふまえた職務遂行を求めています。また、「常に公平・中立を守り、証拠を操作して事実を隠蔽・わい曲するような圧力に屈せず…」と述べているように、アーキビストに対して高い倫理観をもち、公平・中立性を保つよう求めています。さらにアーキビストの職務を「(1)評価選別・収集」、「(2)保存」、「(3)利用」、「(4)普及」の4段階に大別しており、各段階で必要な「職務の内容」と「遂行要件」を「別表1」としてまとめています。
「職務基準書」の内容を簡単に紹介しました。アーキビストが必要な機関・団体は国・地方公共団体だけではないので、職務内容のすべてが合致するわけではありませんが、よくまとめられていると思います。「中規模館」・「小規模館」と位置づけられる地方公共団体や企業のアーカイブズにおいても人員採用のひとつの指針となりうるものとなるでしょう。
しかしひとつ気になるのは、「職務基準書」から「アーキビストの国家資格化」が進んだとしても、財政上の理由や人員配置の観点から「(不要不急の部門に)専門職を雇用しない」という地方公共団体の方針が変化するかまったく不透明な点です。たびたび指摘されているように、「当分の間、地方公共団体が設置する公文書館には、第四条第二項の専門職員を置かないことができる」という「公文書館法 附則2」を改正し、かつ地方公共団体の人事慣行をも変えない限り、専門職としてのアーキビストが安心して働ける環境とはなりません。とはいえ、国立公文書館のこうした試みは、専門職制度を確実に前進させる画期的なものです。今後の動きに期待していきたいと思います。
⇒アーキビストの職務基準書および検討会議配布資料・議事概要
⇒公文書館法(PDF)
ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 中村 崇高
県立の公文書館職員として公文書の評価・選別、古文書の整理、展示業務などに従事の後、現職に至る。