企業アーカイブ構築を成功させるために
近年、企業ミュージアムが各地でオープンしていますが、創業以来の歴史的資料を遺漏なく収集して、きちんと保存している企業は、そう多くはありません。かたちのある製品を作っているメーカーや、いわゆるBtoC企業は、モノが残りやすい傾向にありますが、系統的に資料を残すことをしてきていない、というところが多いようです。
そのようななかで、ゲーム開発資料のアーカイブ構築に取り組んだバンダイナムコスタジオの兵藤岳史さんの講演が注目を集めました。これは、日本最大のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2018”のなかで「ビデオゲーム黎明期の開発資料を紐とく-ナムコ開発資料のアーカイブ化とその活用」というタイトルで8月24日に報告されたものです。
このプロジェクトは、一貫して弊社がサポートをさせていただいており、私もその経緯を知る者ですが、様々な取り組みのなかには、多くの教訓や示唆に富むエピソードがあります。なかでも、資料の散逸に危機感をもった兵藤さんたちが、真正面から「2大目標」と「4大方針」を掲げて予算を獲得し、組織的、計画的に進めていったというお話には感銘を受けました。「2大目標」とは、①開発資料の保存と活用 ②エモーショナルエクイティ(感情的資産)の増大で、「4大方針」は、①一次資料として半永久的に保存可能に ②DB化・アクセスできるように整理 ③社内での活用 ④社外へのアピール、です。集めるだけでなく活用を見据えた、たいへん具体的で説得力のある内容です。
エモーショナルエクイティ(emotional equity)とは、あまり聞きなれない言葉ですが、企業で働くスタッフ、その顧客などがその企業に寄せる思いの量、といった意味です。兵藤さんは、活動を推進するには単純な利害だけでなく“神話”が必要、とも言っていました。
会社によって、アーカイブをめぐる状況は千差万別ですが、このような先進的な取り組みから学べることは多いと思います。
*この報告の詳細は下記のサイトで報じられています。
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20180829039/
https://www.famitsu.com/news/201808/26162941.html
ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 中川 洋
歴史系博物館学芸員として資料の収集・管理や展示・教育業務に携わり、現職に就く。
現在は、企業および学園アーカイブのコンサルティング、プランニング、マネジメントに従事。