公文書管理をめぐる課題
公文書管理のあり方が話題となっています。「桜を見る会」の出席者名簿を内閣府が「1年未満文書」として廃棄していたことが問題視されています。大型のシュレッダーが存在するとか、廃棄されたタイミングに注目する向きもあるようですが、この「1年未満文書だから廃棄した」というフレーズ、皆さまどこかで聞き覚えはないでしょうか。以前、陸上自衛隊の「日報」、森友学園の交渉記録も同様に「1年未満文書」として廃棄されていました。本コラムでは、「1年未満文書」の定義を確認したうえで、現行の公文書管理制度の課題についてみていきたいと思います。
2009(平成21)年に施行された「公文書等の管理に関する法律」(公文書管理法)の理念を実現するため、政府は補足として公文書管理の実務上の留意点を明記した「行政文書の管理に関するガイドライン」を、2011年4月に閣議決定しました。これは森友学園をめぐる公文書管理のあり方への批判をうけて、2017年12月に一部改正されています。その重要なポイントが、「1年未満文書」の定義を明確化したことです。
ガイドラインによれば、「1年未満」の保存期間を設定することのできる文書とは、①正本などが別に管理されている行政文書の写、②定型的・日常的な業務連絡など、③出版物などを編集した文書、④○○省の所掌事務に関する事実関係の問合せへの応答、⑤明白な誤りなどを含み、利用に適さなくなった文書、⑥意志決定の途中段階で作成したもので、長期間の保存を必要としない文書(※1)と定義されています。そもそも「1年未満」という保存期間が設定されたのは、「軽易な」文書の管理についやす職員の負担を軽減するための措置でした。役所では、日々数多くの文書が作成されます(役所だけでなく企業・学校でも同様ですが)。それらのなかには、宅急便の伝票などの支出伝票、文書のコピーといった長期間保存の必要がないものも含まれます。こういった文書が、本来「1年未満文書」となるべきものなのです。
報道などで周知のとおり、「桜を見る会」に関する名簿は、招待者を推薦した各省庁では保存されているにもかかわらず、内閣府では「1年未満」として廃棄されていたとのことです。また過去の名簿は、国立公文書館で閲覧することができます(※2)。ネット上などでは、この報道をうけて、「公文書管理の厳格化」、たとえば「保存期間をすべて10年以上にした方がよい」といった声も散見されます。しかし、「1年未満文書」というカテゴリーは、大量の文書が発生する今日において必要不可欠なものです。筆者は今回の件を見聞きして、公文書管理の趣旨を広く理解してもらうことの重要性をあらためて感じています。行政機関の文書管理は、国民への説明責任を果たすだけでなく、業務効率を向上させるために行うものでもあるのです。こうした点をふまえつつ、法律の趣旨にのっとった文書管理を実施することが求められているのではないでしょうか。

ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 中村 崇高
県立の公文書館職員として公文書の評価・選別、古文書の整理、展示業務などに従事の後、現職に至る。