資料のための防災対策
岩手・宮城内陸地震から1年を経た被災地で、東北大学の平川新(ひらかわあらた)氏の話を聴く機会を得ました。
平川氏は著名な歴史家ですが、宮城歴史資料保全ネットワークの理事長もされています。このネットワークは、2003年7月の宮城県北部連続地震によって被害を受けた資料のレスキュー活動を行ったことをきっかけに設立され、県内の文化財や古文書など歴史資料の調査・救出(レスキュー)・保全活動を行っています。
2008年 6月14日に発生した岩手宮城内陸地震の際にも、地震発生直後から手分けして現地に入り45軒の旧家で資料調査・レスキュー活動を精力的に展開しました。
平川氏の話で印象的だったのは、地震発生後一ヶ月くらいの間は活動が順調に進められたものの、二ヶ月目、三ヶ月目になると「つい先日、壊れた建物を取り壊 し瓦礫と一緒に捨ててしまった」「ほんの一週間前に焼却してしまった」という事例が増えるようになって、たいへん悔しい思いをしたというお話です。
地震の直接的な被害ではなく、その後の復興過程のなかで資料が滅失してしまうという現実があるというのです。「有事」の資料レスキューが、いかに緊急性を帯びたものか、考えさせられる事例です。
同ネットワークでは、被災地以外の地域でも歴史資料の所在調査をおこなっています。この調査の目的のひとつは、緊急時に救済が必要な資料のリストを作成することです。今後、災害が発生することを予期した調査活動で、「地震後の活動から地震が来る前の活動へ」資料のための防災対策を施しているわけです。
「有事」に資料をレスキューしなくてはならない、と考えるのは難しいことではありませんが、「平時」にその備えをしておく、いわばリスクマネジメントの観点から予防的に手をうっておくという発想からは、学ぶべきことが多いと思いました。

歴史系博物館学芸員として資料の収集・管理や展示・教育業務に携わり、現職に就く。
現在は、企業および学園アーカイブのコンサルティング、プランニング、マネジメントに従事。