アーキビストはレコード・マネジャーも兼任?
社会情勢の変化のスピードが速まり、「今日の資料は、明日には史料になる」と言わる昨今です。このような環境のなかで、アーカイブは、単に「過去の記録」だけを相手にしていていいのか、という議論が出始めています。
もともと、ヨーロッパ社会におけるアーカイブは、現用文書も含めた記録全般を管理・保存する考え方だったようです。社会が成熟して複雑になり文書量も多くなるに従って、1950年代、特に米国において、レコードとアーカイブを分けて考えるようになりました。そこでは、レコード=現用文書を扱う専門家をレコード・マネジャー、アーカイブ=非現用文書を扱う専門家をアーキビストと呼んで区別し、役割を分担したのです。
しかし、このように役割を分担させると、一般の市民は随分と不便を感じるようになりました。例えば、これまで情報公開法などは、行政機関の「行政文書」と言われる現用文書のみが市民の請求により閲覧可能になる、という法律で、「特定歴史公文書」と言われる非現用文書は公開の対象にされていなかったのです。昨年(2009年)成立した公文書管理法により、ようやく特定歴史公文書の閲覧ができるようになりました。
ドキュメント(文書)
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レコード(記録)
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アーカイブ(組織記録)
アーカイブズ(社会記録)
という一連の流れを合わせてみる新しい考え方を、「レコードキーピング」と呼び、担当者をレコードキーパーと呼んでいます。私たちは、「文書」や「記録」という言葉を深くは考えずに使っていますが、ここでは明解に定義されています。
この考え方は、私たちの活動の痕跡を、まずドキュメントと捉えます。それが何時書かれたのか、誰が書いたのかということは作成者しか分かりません。そこでこれに目録を付してレコードとします。さらにそれが個人という枠を越えて、アーカイブ(組織記録)となり、さらにはアーカイブズ(社会記録)となりうるという、記録の社会での在りようをマクロ的に把握する考え方です。アーカイブを、ゆめ「歴史資料」だけだなどと思ってはいけません、と主張しており、いわば、作成された時点から、組織記録、社会記録として共有されるべき存在なのだ、という主張なのです。そこではライフサイクルという考え方、すなわち文書を作成後、時間の経過とともに使用頻度が減少して保管する、ゆくゆくは選別して、保存・廃棄の選択をする、という「作成者の視点から見た記録」というミクロ的な考えの限界を指摘しています。
記録の持つ、このような重要な性質にどのようにアプローチしていくのか、レコード・マネジャー、アーキビストには新しい課題が突きつけられています。