タブーなき情報公開を
今年の8月末、新聞各紙はカラーで東京拘置所内の刑場の写真を掲載しました。死刑が執行されるその現場を、私たちは始めて目にすることになりました。「地球よりも重い」人の命を、合法的に人の手によって断ち切るその空間の鮮明な写真は、衝撃的でした。刑場公開の契機となったのは、法務大臣の死刑執行立ち会いでした。当人が死刑反対論者であったことや、選挙で落選した直後であったことなどから、さまざまな論議を呼び起こしましたが、法相の進言により刑場の公開が実現したことは歓迎すべきことと言えるでしょう。これまで長い間、死刑の実態はベールにくるまれ、当局は情報を一切公開せず「密行主義」として国の内外から批判されてきました。1998年からようやく執行の事実と人数を発表、執行された死刑囚の氏名が公表されるようになったのは2007年からです。
わが国は、先進国のなかでは数少ない死刑存置国ですが、国民の多くが死刑存続を「支持」している背景には、死刑についての情報の決定的不足という問題がある、と指摘する識者もいます。法相の英断により、刑場の実態が国民の前に明らかにされたことは、死刑の存廃論議を深める上でも、大きな前進といえるでしょう。
刑法は、明治時代に作られたものが今も生きており、死刑は「絞首」以外の方法が認められていません。刑務所出所者の再犯率の高さなどからも、現在の行刑のあり方について、さまざまな疑問が投げかけられています。「塀の中」は、外からは、うかがい知れない事情があるようですが、私たちは、国民として納税者として「塀の中」についても知る権利がありますし、国には情報を公開する義務があるのです。これからもタブーなき情報公開を求めて行きたいと思います。
ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 中川 洋
歴史系博物館学芸員として資料の収集・管理や展示・教育業務に携わり、現職に就く。
現在は、企業および学園アーカイブのコンサルティング、プランニング、マネジメントに従事。