資料の保存環境
お客様から資料の保存についてご相談を受けると、まず現在の保存状況を実際に拝見させていただきます。チェックするポイントは、窓や照明の状態、気温と湿度の状態、塵や埃の状態など資料の置かれている部屋全体の環境から、個々の資料の梱包・収納状況まで多岐にわたります。これは、資料が劣化する要因が、光、空気(汚染ガス)、温度・湿度の変化、塵や埃やカビ、虫や小動物であることから、それらの影響を遠ざける必要があるからです。
窓がある場合はUVカットシートを貼り、蛍光灯にも専用のカバーなどをつけることで紫外線の影響を防ぐことができます。温度や湿度は、季節によって、また空調のオン・オフにより変化が大きいので、データを連続的に記録するデータロガーという機器で、長期的継続的に観測します。とくに湿度が60%を超えるとカビが発生しますので、注意が必要です。部屋全体を24時間空調運転することは難しいでしょうから、キャビネットの中だけを定湿度に保つドライ・キャビネットをお奨めしています。埃や塵は目視で、害虫についてはトラップとよばれるゴキブリ捕獲器のような機材で、徘徊する虫を捕らえて調べます。かつて博物館などでは、薬剤燻蒸を毎年定期的に行っていましたが、近年では薬剤に依存せず、劣化の要因を突き止めてそれを回避してゆくIPM(Integrated Pest Management:総合的有害生物管理)という手法が主流になっています。外から持ち込んだ埃や塵、食べ物や飲み物の食べこぼしなどが栄養源になってカビや虫が生じますので、資料を保管している部屋は飲食・土足厳禁とし、こまめに掃除をすることが求められます。ちょっとした工夫と注意を重ねることで、資料の劣化のスピードを遅らせることができるのです。

ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 中川 洋
歴史系博物館学芸員として資料の収集・管理や展示・教育業務に携わり、現職に就く。
現在は、企業および学園アーカイブのコンサルティング、プランニング、マネジメントに従事。