資生堂企業資料館見学記
記録管理学会の例会の一つとして、掛川にある資生堂企業資料館を見学する機会がありました。
「東京銀座資生堂」と聞いただけで何か華やかなイメージがかき立てられる同社は、明治5年(1872年)、日本初の洋風調剤薬局として銀座で創業されました。
その創業120周年を記念して1992年に開設されたのがこの資生堂企業資料館です。
創業以来の商品やそのパッケージ、ポスター、新聞・雑誌広告、テレビCMを含む広告関連資料などの変遷が洗練されたディスプレイにより展示されており、見るだけでも楽しい施設となっています。
例えば資生堂初の化粧品「オイデルミン」の現物をはじめ、ロゴタイプや花椿マークの変遷なども見ることができます。正に本物にこだわった企業文化の歴史が創業から今日まで整然と展示されているのです。
同社では企業文化は、いわゆるヒト・モノ・カネと並ぶ重要な経営資源と位置づけられており、その企業文化の流れを可視化したものがこの企業資料館に他なりません。
このように古い資料が豊富に残っているのは、案内役の磯田館長の説明によると、あくまで本物にこだわった企業文化のたまものということでした。
また初代社長が写真家であったり、歴代の経営者が美的センスの持ち主であったため、商品は「芸術品でなければならない」というコンセプトで作られており、消費者や世の中の人々が捨てられずに、いつまでも取って置いてくれたということもあるとのことでした。
今年1月に朝日新聞が実施した「大人が楽しめる企業博物館」のランキングでは、数ある全国の企業博物館中2位にランクされていましたが、それだけ専門家の評価も高いわけです。
最近は企業資料館・企業博物館等のいわゆる企業アーカイブズの役割、価値が広く社会的に認識されだしています。つまり社員教育の優れた教材として、あるいはCSRや良質の企業PRとしても大変有効だということが分かってきたからでしょう。
本物志向の企業文化という明確なコンセプトとポリシーに裏打ちされた資生堂企業資料館は、これから企業アーカイブズを作ろうとする企業の最良のモデルといえるでしょう。

アーカイブ研究所所長 小谷允志
記録管理学会前会長、ARMA(国際記録者管理協会)東京支部顧問、日本アーカイブズ学会会員、日本経営協会参与、ISO/TC46/SC11(記録管理・アーカイブズ部門)国内委員。
著書に『今、なぜ記録管理なのか=記録管理のパラダイムシフト』(日外アソシエーツ)など。