脳を創るアーカイブ―『脳を創る読書』より
今、「紙の本」が危機に瀕している―と警鐘を鳴らしているのは、『脳を創る読書―なぜ「紙の本」が人にとって必要なのか』(実業之日本社、2011年)の著者、酒井邦嘉氏(言語脳科学者)です。
本書は「電子書籍」を批判するような皮相的な議論ではなく、「紙の本と電子書籍の共存」に力点を置き、読書し「考える」ために何が必要かを追求しています。
活字は音声や映像よりも脳に入力される情報量が少ない分、脳が想像力で補うことが増えるので「自分の言葉で考える」ことにつながるとされ、脳に出力される情報量が多い手書きの文字や会話などにも想像力が必要とされると述べられています。
人間の持つ知性、つまり想像力を鍛えることによって文脈(コンテクスト)を読むチカラを活発化させるメディアとは将来どうあるべきか、考える岐路に立たされていることを実感します。
さて、ある組織が過去から現在までの経営資料を、それぞれの目的にしたがって収集、整理、保存、活用するためにルールやシステムを作り運用させること、この一連の過程とそれに伴う行動、構築物、ルール化された資料の流れとその運用を総称して「企業アーカイブ」や「大学アーカイブ」等と言われていますが、これらのアーカイブも酒井氏の著書と通じる考え方が応用できるのではないかと、私は考えます。
「アーカイブ」イコール「電子化」と考えられがちです。とりあえず紙の文書を電子化し、電子ファイルをサーバに格納しておく…この方法は本書で言うところの「組織の想像力は鍛えられているか、組織のコンテクストを読めているか」の問いに転じることができます。大切なのは、紙の文書と電子文書のメリット・デメリットを客観的に判断し、組織としての将来がどうあるべきかを話し合ってみることです。その一助として弊社もお役に立てればと、考えています。
ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 小根山 美鈴
都内の大学史編さん室、独立行政法人の研究所でアーカイブズの業務に従事の後、現職に至る。日本アーカイブズ学会会員。