アーキビストの眼:電子記録の性質(2)
前号で、「アーキビストの眼」から見て問題となる電子記録の性質は主に4つあると申し上げました。今号では、その1つである電子記録の安全性についてお話したいと思います。
紙文書と比べて電子情報は、手軽に且つ大量に可搬型メディアを使用して持ち運ぶことができ(※1)、また、簡単に変更・加筆・保管ができるのが利点ですが、このような利点は記録管理をする上では弱点となります。なぜなら、記録情報の滅失・不正使用・誤使用や大量情報漏洩を引き起こす原因となるからです。
記録情報滅失は、システムの変更過程や、組織に再編・合併・倒産などの大きな変化がある時、また災害時に最も起こりやすいと言われています。9.11テロ事件の時、記録情報がどのように管理されていたかでワールドトレードセンター内の企業の復興に大きな差が出ました。記録情報管理が行われていなかったため組織記録全てを失い、倒産した企業は少なくなかったそうです(※2)。前号でお話しした組織のvital records(基幹記録)だけでも、遠隔地の別置サーバーなどにバックアップ保存するなどの対策が必須です。
記録情報の不正使用・誤使用・漏洩も大きな問題です。こういった問題は、上記のように偶発的に起こる災害などとは異なり、ほとんどの場合が人為的作用によって起こることを忘れてはいけません。パスワードなどで保護せずに社内電子文書をUSBやDVDに入れて、オフィスの外に持ち出していませんか?ウィルススキャンがインストールされていなパソコンやスマートフォンで組織の電子文書を開いていませんか?
上記全てにNOと答えることのできる記録管理体制を組織内に確立することが大切です。そのためには、まず、組織内の記録情報管理に関する方針を立て、適正、且つ遂行可能なルールを作り、それに従い、組織内の誰が読んでもわかるように、簡潔で読みやすいガイドラインを作成することが必要です。最も大切なのは、組織の構成員一人一人の意識を高めることです。当社では、コンサルティングの一環として出張セミナーや方針・ルール作りのお手伝いを行っています。この機会に電子記録の管理方針を見直されてみませんか。
次回は、3つ目の問題点である電子記録の完全性についてお話ししたいと思います。
※1 ノート型パソコンやUSBドライブを携帯して移動した時、社員一人につき、ファイルキャビネット1台分に相当する文書を運んでいる(Swartz, Nikki, The Information Management Journal 40:5 (Sep/Oct 2006), p35)。
※2 ワールドトレードセンターにオフィスがあった企業で、バックアップが保存されたサーバーを同じワールドトレードセンター内の地下室に保管し、サーバー内の電子情報が全て失われ倒産したという例があります。

ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 白川 栄美
英国国立リヴァプール大学大学院アーカイブズ学・記録管理学専攻修了。国文学研究資料館外来研究員、ロンドンロスチャイルド銀行アーカイブズ短期研修などを経て、現職に至る。日本アーカイブズ学会会員。