アーキビストの眼:保存か活用か
当社のアーカイブサポートでは、目録作成などの資料の「知的整理」のほかに、資料にとって最適な保存環境を作るための「物理的整理」もご提供しています。
保存措置・資料の防護と呼ばれる作業(例えば、保存のために資料を封筒や箱などの保存容器に入れること)はそのひとつです。
長期保存のための保存容器について、お客様からご相談を受けた際、当社では、資料の保管される環境状態を十分考慮した上で、資料ごとに適した保存容器をお奨めしています。
例えば、むきだしのまま保管されていた紙媒体資料ですと、埃から守り、封筒内での内部劣化の進行を減少するために、弱アルカリ性紙製の封筒に入れることをお奨めすることがあります。その際、お客様から、封筒にしまいこむと活用がしにくい、また、取り出しにくいだけでなく中身が全部見えない、というお声をいただくことが多くなってきました。
この「活用」も、実は、方法次第では、資料劣化の進行を早める原因のひとつなのです。
活用されず保存されていたからこそ、何百年を経た後まで完璧な状態で残っているという例は少なくありません。紙媒体資料ではありませんが、例えば、1680年~1900年初頭に貿易船と一緒にイギリスに持ち込まれた種で庭を造るというプロジェクトがイギリスで行われました(※1)。
これらの外来植物の種は、偶然とは言え、船の重しとして使われた土の中という最適な保存環境で、手付かずな状態で休眠していたため、数百年経った今、『Ballast Seed Garden』という庭で発芽することができ、私たちは当時の貿易ルートや生活史を知ることができるのです。
では、「歴史的価値」を持つ資料を残し続けるためには、高価な保存容器に入れて活用せずに眠らせておくほうが良いのでしょうか。
現在、アーカイブズ学界では、活用を前提とした保存、活用のされない保存は意味がないのではないかという議論が行われています。
「保存」のみ、もしくは、「活用」のみに固執せず、大切なのは、「保存」と「活用」を両立させること、つまり両者のバランスだと思います。電子化や複製作成なども、「バランス」をとるための有効的な手段にすぎません。
「保存」か「活用」か、アーキビストの常なる課題ではないでしょうか。
※1. Mail Online, "The 'world garden' grown on a barge from seeds discarded at Bristol docks 300 YEARS ago by trading ships from Africa and Asia",
http://www.dailymail.co.uk/news/article-2184912/World-garden-grown-onboard-barge-seeds-discarded-Bristol-docks-300-YEARS-ago.html (2013年2月25日アクセス)

ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 白川 栄美
英国国立リヴァプール大学大学院アーカイブズ学・記録管理学専攻修了。国文学研究資料館外来研究員、ロンドンロスチャイルド銀行アーカイブズ短期研修などを経て、現職に至る。日本アーカイブズ学会会員。