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~特定秘密保護法案最終案と国立公文書館の役割とは
~特定秘密保護法案最終案と国立公文書館の役割とは
朝日新聞DIGITALで、安倍政権がまとめた特定秘密保護法案の最終案の詳細記事が掲載されました(2013年10月17日付 *1)。
この「特定秘密の保護に関する法律案」について、当初より有識者や一部のマスコミが「秘密文書が残らない」という、公文書管理のあり方に対する懸念を表明しました。その理由は、我が国の安全保障に関する情報漏えいの防止を目的としたこの法案が、特定秘密に指定された文書の保存期間満了後の取扱規定を盛り込んでおらず、通常の公文書で適用される「公文書管理法 *2」における保管・管理のルールの適用範囲外とされるため、保存期間を延長したあげくに担当省庁によって廃棄される可能性があるからです。
最終案にも特定秘密の文書保存・廃棄についての項目はありませんでした。「第六章 雑則第十八条2」で、「政府は、前項の基準を定め、又はこれを変更しようとするときは、我が国の安全保障に関する情報の保護、行政機関等の保有する情報の公開、公文書等の管理に関し優れた識見を有する者の意見を聴かなければならない」とありますが、これ以上の具体的な記述はありません。
仮に、保存期間が満了した特定秘密文書が国立公文書館へ移管されたとしたら、「公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると当該特定歴史公文書等を移管した行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報 *3」に該当し、利用請求の取扱いが制限されることになるでしょう。しかしこの場合、「今」は利用に制限を加えられたとしても、担当省庁の判断で勝手に文書を廃棄されることは免れます。
ところで、市町村合併により廃墟になった村役場で、永らく樽詰めにされた村役場文書が放置されているケースがありました。しかし実は、周囲の住民が樽の中身を知っており、重要そうだから勝手に捨てられないという暗黙の了解のもとに、文書が「守られて」樽詰めのままにされていたのです。今ではある公文書館が引き取って保管されています。
この村役場文書の事例については、地域の歴史的な資料が公文書館に受け継がれたという意味で非常に意義深いものです。一方、このたびの法案では、組織の恣意的な判断により残すべき公文書が国立公文書館へ移管されずに、後世にも受け継がれなくなる可能性が生じるので、見直す余地のある法案と言えるでしょう。
*1 朝日新聞DIGITAL「特定秘密保護法案の最終案詳細」
http://www.asahi.com/politics/update/1017/TKY201310170125.html (最終アクセス日2013年10月18日)
*2 公文書等の管理に関する法律
*3 『公文書移管関係資料集(平成25年度版)』(独立行政法人国立公文書館、2013年6月、p.122)
http://www.archives.go.jp/law/pdf/h25_ikan_siryou.pdf (最終アクセス日2013年10月18日)

ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 小根山 美鈴
都内の大学史編さん室、独立行政法人の研究所でアーカイブズの業務に従事の後、現職に至る。日本アーカイブズ学会会員。