アーカイブズとPreventive Conservation
次世代やその先の子孫のために文書・記録を残していくことは、アーカイブズの大切な使命です。しかし、史資料は放置すれば劣化が進んでしまいます。
史資料の劣化の深度には、次のような段階があります。手にとって見ることができる状態(A)、取り扱いに注意を要する状態(B)、修復が必要な状態(C)、そして修復ができない状態にまで劣化が進んでしまうケースもあります。多くの場合、Cの状態になると専門家の助けが必要ですが、A・Bの状態をCまで進行させないための措置は、専門家だけではなく、史資料の保存にかかわるすべての人の責務であるといえるでしょう。
史資料の急激な劣化を回避・予防するための保存措置を、欧米ではPreventive Conservationといいます。Preventive Conservationでは、「自分たちでできることは自分たちでやる」という積極的な気持ちと、知恵を出し合い相互に助け合う体制が求められます。日頃から環境に対する知識を高め、史資料にとって良い環境とは何かを考え、意識的に改善し、継続していくことが大切です。
史資料の劣化・損傷には、主に9つの要因があります。
(1) 人的災害(盗難、破壊行為など)
(2) 火気
(3) 水気
(4) 光線(放射線)
(5) 生物(カビ、虫、小動物)
(6) 大気汚染
(7) 衝撃などの物理的ダメージ
(8) 不適切な湿度
(9) 不適切な温度
このうち、4、6、8、9については、数値による現状把握ができれば、改善の具体策を講じることができます。例えば、光によるダメージは、「光の強さ×時間」で計測できます。光への耐久性は史資料の材質その他の条件により異なります。温度・湿度に関しては、史資料を結露させない状態に保つため、結露が始まる点を100%とする相対湿度による管理が有効です。これもそれぞれの史資料の材質に適した相対湿度があります。空気中に含まれる水分は、温度によって飽和量が変化するため、相対湿度のコントロールには温度管理も必要なのです。また、史資料は湿度変化による影響を受けやすいため、湿度を一定に保つための適切な梱包と同時に、湿気やカビの原因となるホコリを除去し、清潔な環境を保つことは特に重要です。
このように、私たちが次世代のために成し得ることは、実は少なくないのです。そして何よりも大切なのは、日々の継続的な環境管理であり、そのためには、史資料保護の基準を設け、取り扱いに注意すると同時に、史資料保存にかかわるすべての人への理解を促し協力を得ることが大切です。
Preventive Conservationのプロセスは、史資料への理解にとどまらず、ものごとをよく把握し、活用できる状態を保ち、必要に応じて役立てるという、アーカイブズの本質に通じるのです。

ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 宮本飛鳥
英国の大学院で博物館学を学び、修士号を取得。英国でコレクション・ドキュメンテーションやコレクション・マネジメントの調査・ボランティアを経て、現職に至る。