「情報ガバナンス」という考え方
最近、海外、特にアメリカでは情報管理・記録管理分野において「情報ガバナンス」(Information Governance)という新しい考え方が広まりつつあります。まだ日本では「情報ガバナンス」という言葉はあまり馴染みがないと思われますが、コンピュータ用語辞典によると「ある組織内での情報化についてのポリシーの確立と推進体制を統括すること」と説明されています。しかしこれではもう一つ具体的なイメージが湧きませんね。世界的なIT分野の調査会社ガートナー社の定義では「情報の評価、作成、保存、利用、アーカイブ、消去において適切な行動を確実に取るための正しい意思決定と説明責任の枠組みの詳細」となっています。こちらは少し具体的になっていますが、まだ十分とは言えません。そこで次のように考えれば分かり易いのではないでしょうか。
現在、組織における情報は、従来の紙情報から電子情報に比重が移りつつあります。これら激増する電子情報がどこにあるかと言えば、各クライアントのPC、あるいは共用のサーバー、CD-R、DVD等の外部記録媒体から、さらにはクラウドなど実に様々な場所に存在するわけです。そして組織は、組織内のこのような情報のすべてを総合的に管理しなければなりません。しかも情報開示等の説明責任、リスク管理、歴史的記録のアーカイブなどの要件を満たしながら情報の保存・活用を図るという難しい対応が求められているのです。つまりこのような情報環境の変化に対応するために「情報ガバナンス」という新しい情報管理の概念が登場したと考えられるわけです。
世界的なレコードマネジャー(記録管理専門職)の協会(ARMA)では、従来からCRM(Certified Records Manager)という大変権威のある資格制度を運営してきましたが、2014年初めから、新しくIGP(Information Governance Professional)という資格制度の運用を開始しました。すでに今年2015年11月時点で、200名のプロフェショナルの有資格者が誕生しています。このことは「情報ガバナンス」と言う新しい記録管理分野の専門職に対するニーズの高まりを示すものと言えるでしょう。

アーカイブ研究所所長 小谷允志
記録管理学会前会長、ARMA(国際記録者管理協会)東京支部顧問、日本アーカイブズ学会会員、日本経営協会参与、ISO/TC46/SC11(記録管理・アーカイブズ部門)国内委員。
著書に『今、なぜ記録管理なのか=記録管理のパラダイムシフト』(日外アソシエーツ)など。