学芸員は“がん”か?
山本幸三地方創生担当大臣が今月、自身の講演の中で、「一番の“がん”は学芸員だ。この連中を一掃しなければだめだ」と発言したことが話題となっています。
この発言、どういう文脈の中で出てきたかと言いますと、この方、自分が担当する地方創生には観光が重要で、特に外国人観光客を地方に集めなければならない。
ところが「観光マインド」のない学芸員が、水を使ってはだめ、火を使ってもだめと言って(京都の二条城のことを言っている)、邪魔をする。だから「一掃しなければ」ということになったわけです。
しかも例のごとく一夜明ければ、くだんの発言を撤回、謝罪するというお粗末さ。これをテレビ・新聞等のマスコミは、「安倍一強のおごり、ゆるみ」と評しています。最近の閣僚たちの相次ぐ失言、暴言を見ていると確かにその通りでしょう。
しかしここで筆者が問題にしたいのは、知識情報資産を管理する専門職に対する理解度、認識度です。知識情報資産を管理保存し、一般の利用に供する施設の代表的なものに博物館、図書館、文書館(アーカイブズ)があります。
そしてそれらを管理、運営する専門職が、順に学芸員、司書、アーキビストということになります。ところでこの大臣、講演の中で使った表現は「文化学芸員」でした。
学芸員はあくまで学芸員であり、「文化学芸員」などという言い方は聞いたことがありません。これからも分かるようにこの大臣、学芸員というものの本質がまったく分かっていないのです。
毎日新聞によると日本には約7800人の学芸員がいるそうですが、アーカイブズ分野の専門職、アーキビストの人数はおそらくその15分の1程度でしょう。これだけ大勢が活躍し、存在感のある学芸員ですらこの程度の認識だとすると、もっと地味で少数のアーキビストに対する見方はどうなのかが気になるところです。
学芸員が“がん”なら、アーキビストは一体、何と言われるのでしょうか。実はこの大臣、公文書管理担当大臣を兼務しているというのですから、こうなるともうブラック・ユーモアの世界です。

アーカイブ研究所所長 小谷允志
記録管理学会前会長、ARMA(国際記録者管理協会)東京支部顧問、日本アーカイブズ学会会員、日本経営協会参与、ISO/TC46/SC11(記録管理・アーカイブズ部門)国内委員。
著書に『今、なぜ記録管理なのか=記録管理のパラダイムシフト』(日外アソシエーツ)など。