新型コロナとアーカイブ
ここ数か月新型コロナウィルスが世界中で猛威をふるっています。日本では、「緊急事態宣言」が解除されましたが、なお予断を許さない状況です。こうした世界的なパンデミック(世界的大流行)は、歴史上繰り返し起こってきました。中世ヨーロッパの「黒死病」(ペスト)、幕末日本の「虎列刺(コレラ)」、そして20世紀初頭の「スペイン風邪(インフルエンザ)」の大流行、これらは私たちの価値観、生活様式を一変させるほどの大きなインパクトを与えました。
現代を生きる私たちが、当時の状況を知ることができるのは、危機に直面した当時の人々が記録を残し、それらが保存されてきたからです。新型コロナウィルスに対峙している我々も未来の人々へ記録を語り継がなければなりません。
アーカイブの国際機関である国際公文書館会議(ICA)は、国際情報コミッショナー会議と共同声明として、「COVID-19:記録を残す責務は危機的状況下でも失われず、より不可欠となる」を発表しました(2020年5月4日)。今回から2回にわたって、この共同声明の内容とアーカイブ機関の取り組みについて紹介していきたいと思います。
ICAの共同声明は、その冒頭で「全世界の政府、企業、及び研究機関に対し、各機関の意思決定や活動を、現在と将来のために記録に残すよう呼びかける」と述べたうえで、以下の3つの行動を求めています。
①決定は記録されなければならない。
②全ての機関において、記録及びデータが保護・保存されなければならない。
③活動停止(シャットダウン)期にはデジタルコンテンツのセキュリティと
保存、そしてコンテンツへのアクセスが促進されなければならない。
今回のコラムで特に注目したいのは、①のなかで「通常のプロセスや組織的基盤なしに新たな労働環境が急速に採用されていくために、記録は人知れず危機的状況にあるかもしれない」と、社会の急速な変化がかえって記録(資料)の散逸を呼び起こすことに強い危機感を表明している点です。全世界で新たな生活、仕事のあり方が実践されることになります。しかし、新たに構築されたプロセスは、記録(資料)の長期的保存という観点をかならずしも考慮したものではありません。そのため共同声明は、記録が人知れず失われる可能性が強いことに警告を発しているのです。この指摘は記録を扱う我々にとって考えなければならない喫緊の課題であるといえるでしょう。
次回のコラムでは、②・③の内容を紹介しつつ、国内のアーカイブ関連諸団体の取り組みを紹介していきたいと思います。
・国立公文書館⇒国際公文書館会議(ICA)の共同声明
http://www.archives.go.jp/about/activity/international/20200515_ica.html
・本コラムの拡大版として「パンデミックとアーカイブ」という長編コラムを、社史・アーカイブ総合研究所の会員向けに発信しています(6月初旬アップ予定)。ご興味のある方は、下記URLにアクセスのうえ、会員登録いただければ幸いです。
https://shashi-archive.jp/
ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 中村 崇高
県立の公文書館職員として公文書の評価・選別、古文書の整理、展示業務などに従事の後、現職に至る。