新型コロナとアーカイブ II
「緊急事態宣言」が解除されて1ヶ月がたちましたが、第二波の到来が懸念されています。こうした状況下でいかに記録を保存・管理していくのか、前回のコラムでは国際公文書館会議(ICA)の共同声明の一部を紹介しました。このなかで示されている3つの行動原則をあらためて確認しておきましょう。
①決定は記録されなければならない。
②全ての機関において、記録及びデータが保護・保存されなければならない。
③活動停止(シャットダウン)期にはデジタルコンテンツのセキュリティと
保存、そしてコンテンツへのアクセスが促進されなければならない。
今回は②・③の内容をみていきたいと思います。②のなかで、ICAは記録を残すことが義務であると述べたうえで、その原則が政府機関だけでなく営利団体、研究・教育機関にもあてはまることを強調しています。特に営利団体については、業務の継続性担保、公的機関からの補助金取得のために、その活動の根幹となる記録を適切に保存することが必要であると述べています。そして、今回の危機下における歴史資料保存機関としてのアーカイブズの存在価値について言及しています。
適切な記録管理の実践は、事業の継続、研究やイノベーションに限らず、どのように危機が管理されたかを未来の世代に示す証拠となる。アーカイブズ機関は、1918年のスペイン風邪のパンデミックに関する記録の保管者であり、それら記録は全世界の科学者によって研究されている。アーカイブズ機関が、今度はCOVID-19パンデミックに関する記録の要となり得る(傍線は筆者による)
アーカイブズは、コロナ危機における記録保存の拠点でなければならないのです。それではどのような記録を保存していく必要があるのでしょうか。
ICAは③のなかで、「公的記録」という紙資料だけでなく、「アルゴリズムやラフデータ、あるいは生データ等」をもその対象としています。これらの多くはデジタルデータであり、その多くはアーカイブズの対象として認識されてこなかったか、気づかないうちに失われる可能性が高いものです。今回のコロナ禍により、今後デジタル化の動きは加速し、その過程で膨大な量のデジタルデータが発生します。ICAが想定している「生データ」とは、特に研究データであると考えられますが、こうしたデータをも保存対象としていることは注目に値します。
また重要なのは、ICAが歴史資料保存機関としてのアーカイブズを、「生データの保管者として認識され、リソースが与えられる必要がある」と述べている点です。つまり、アーカイブズ自身が、貴重な記録を永久的に管理する機関として社会で認識されることが必要であると表明しているのです。アーカイブズの認知度が高いとはいえない日本において、この課題にいかに取り組むのか。重い課題が突き付けられていると思います。
ところで、「記録を残すことが重要なのはわかるが、いったい何を残せばいいのだろうか?」という疑問の声をいただくことがあります。現状、各機関がそれぞれ試行錯誤の取り組みをつづけていると思います。7月22日、筆者は「コロナ危機とアーカイブ」というテーマで、コロナ関係資料の保存に関する他機関の取り組み、記録保存の方法についてお話させていただきます。ご興味のある方は、下記URLをご参照いただければ幸いです。
出版文化社主催オンラインセミナー:
ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 中村 崇高
県立の公文書館職員として公文書の評価・選別、古文書の整理、展示業務などに従事の後、現職に至る。