デジタル庁設置とアーカイブ
9月16日、菅義偉内閣が発足しました。菅内閣の目玉施策として位置づけられているのがデジタル庁の設置です。平井卓也デジタル改革相は、デジタル庁新設に向けて「デジタル改革関連法案準備室」を設置し、早速基本的な枠組みなどについて議論を開始し、2021年1月の通常国会に関連法案を提出するとのことです。
経済界もこのような取り組みに好意的な反応を示しています。経団連は、9月23日「デジタル庁の創設に向けた緊急提言」を発表しました。このなかで、①経済社会のあらゆる分野においてDX〔筆者註:デジタルトランスフォーメーション〕に集中的に投資すること、②行政のDXを進めること、③国・地方を通じてデジタル政策を一元的に立案する部局を設置すること、④サイバーセキュリティの確保につとめることを示しました。
こうした動きの背景にあるのは、いうまでもなくコロナ禍においてデジタル化の遅れによる様々な課題が表面化したことにあります。たとえば、定額給付金を給付する際、マイナンバーカードを有効に活用できなかったこと、テレワークを推進しているにもかかわらず、いわゆる「紙文化」「印鑑文化」が定着しており、意志決定がスムーズにいかなかったことなど、問題点をあげれば枚挙にいとまがありません。新たな働き方のなかで、デジタル化を推進することは絶対に必要なことです。しかし、これまでのデジタル化をめぐる報道などをみていると、デジタルデータの永久保存とその利用、つまりアーカイブに関する議論がすっぽり抜け落ちってしまっているように感じます。
デジタルによる事務処理を行ううえで留意しなければならないのが、データの真正性・完全性・利用性を確保することにあることはいうまでもありません。さらに、長期保存が必要なデータについては、アーカイブ担当部局へすみやかに引き渡し、永久に保存、利用できるようにしなければなりません。こうした体制を構築することの重要性は、これまでの議論のなかでどれだけ意識されているのでしょうか。
河野太郎行政改革担当大臣が就任早々強い調子で述べたように、今回政府が推進しようとしている「デジタル化」は、国・地方の一元的なシステム構築だけでなくDX推進による旧来の働き方を抜本に見直すことにあります。ただ、公文書管理法第1条で定める国民共通の知的資源としての公文書や企業などの情報資源である文書が、デジタル化されることにより将来の世代に伝わらなくなってしまわないか、こうした考えが杞憂に終わることを祈念してやみません。
いずれにせよ、デジタル化は間違いなく進んでいくことになります。そのなかで、いかに情報資源となりうるデータを将来へアーカイブしていくのか。文書をデジタルで作成することだけがデジタル化ではありません。ワークフローを管理するデジタルツールを導入すればよいものでもありません。形だけのデジタル化ではなく、必要なデータを収集・管理する枠組みをニーズにあわせて見直す時期にきたのではないでしょうか。
【参考資料】
・一般社団法人 日本経済団体連合会「デジタル庁の創設に向けた緊急提言」
ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 中村 崇高
県立の公文書館職員として公文書の評価・選別、古文書の整理、展示業務などに従事の後、現職に至る。