アーカイブとクラウドファンディング
昨今、クラウドファンディングを活用したイベントや事業が話題となっています。読者の皆様もご存じのように、クラウドファンディングとは、インターネット上で組織や個人の目標を表明し、それに賛同した人々から広く資金を集める仕組みです。朝日新聞社のクラウドファンディングサイトによると、この仕組みは2000年代後半から米国で盛んになり、日本では東日本大震災を契機に社会に浸透していったといわれています(https://a-port.asahi.com/guide/)。
アーカイブの分野においても現在この仕組みを利用した様々な事業が展開されています。たとえば、日本のアーカイブをリードする機関のひとつである国文学研究資料館(以下、国文研と略記)は、毎年開催していたアーカイブズ・カレッジ短期コースの予算を確保するためにクラウドファンディングでこれを募ったところ、目標額300万円に対して、2倍の600万円もの資金を集めることができました。また、コロナ禍により来館者が減少していた福岡県柳川市の立花史料館も運営資金を募り、1月現在で1,800万円近くの支援が寄せられているということです(https://www.sankei.com/region/news/210121/rgn2101210005-n1.html)。この他にも、クラウドファンディングサイトには、著名人などのアーカイブ設立にかかわる募集も掲載されています。このように、クラウドファンディングは、アーカイブを構築し、維持するためのツールとして認知されつつあります。
よく知られているように、この仕組みには、いくつかの出資形態があります。なかでも、「寄付型」(発案者が支援者からの資金を寄付として受け取る)、「購入型」(発案者は支援者に対してモノやサービスを提供する)がアーカイブに適した仕組みといえるでしょう。ちなみに、国文研のクラウドファンディングは「購入型」、立花史料館は「寄付型」を採用しています。しかし、プロジェクトを成功に導くために、発案者側にも様々な努力が必要となってきます。
国文研は「地域文化再生を担う」、立花史料館は「(立花家のみならず地域の文化資源である重宝の)散逸の危機を」というテーマを掲げています。つまり、大前提としてアーカイブが社会や地域にとって必要不可欠なものであるかをアピールする必要があるのです。そのうえで、「購入型」の場合、対象となる事業の性質に応じて、魅力的な「リターン」を設定することも重要です。
クラウドファンディングは、アーカイブを社会に根付かせるための画期的な方策のひとつであると思います。ただし、国文研のような成功例はまだ稀です。アーカイブ機関においてこれを実施する場合、発案者であるアーキビストの発信力が問われることはいうまでもありません。これから成功例だけでなく失敗例も含めた様々な事例の分析が必要となるでしょう。
ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 中村 崇高
県立の公文書館職員として公文書の評価・選別、古文書の整理、展示業務などに従事の後、現職に至る。