映像資料の保存(2) ― デジタル化する前に
前回のコラム「映像資料の保存(1)」で紹介したように、アナログフィルムの耐用寿命は短いので、長期保存の観点からフィルムをデジタル化する取り組みは、幅広く行われています。さらに、デジタル化による資料の保存という枠組みを超える活動も行われています。例えば、デジタル化された個人の古い8mmフィルムの上映会を地域で開催し、そのフィルムにまつわるいろいろな話をしてもらって、その様子をビデオカメラやデジタルカメラで記録します。これは、古いフィルムを再生し共有する「今」の 空間をも表現の一つとし、新たなデジタル資料を作成・保存するという、文化的でユニークな活動といえます。
では、企業に保管されている映像資料のデジタル化について考えてみたいと思います。
企業の映像資料には、展示会の様子や海外研修、社員旅行、周年行事などを収録したVHSなどの家庭用ビデオ、CM素材などが収録された業務用ビデオ、また8mm、16mmフィルムなど、会社活動に応じて様々な媒体が多く存在します。長い間に蓄積されたこれらの資料を前に、「デジタル化したいけれど何が収録されているのか、それが会社にとって大事なものかがわからない。でも、もう再生できる機器もないし…」と悩むことも多いはずです。
その場合には、再生・修復できる専門業者に依頼すると良いでしょう。8mm、16mmの映写機をレンタルしている業者もあります。ただし16mmの映写には資格が必要です。多少のコストはかかりますが、一度試写すれば内容がわかり、重複や損傷が確認できます。組織的にデジタル化を行うためには、映像資料の取捨選択(アーカイブでは「評価・選別」と表現します)が、大きな課題なのです。
米国イリノイ大学では、録音・映像資料の保存に関する自己診断ツールAvSAP(Audiovisual Self-Assessment Program)をオープンソース・ソフトウェアとして公開しています。これは、映像資料のフォーマットや保存状態等に基づき、保存の優先度を数値化し、スコア形式で判定できるツールです。各媒体の化学的性質や耐用年数等の解説もあり、利用価値が高そうですが、利用するには英語の壁を超えなくてはなりません。こういった分野では、まだまだ日本が遅れをとっていることに、歯がゆい思いがします。
AvSAP : http://www.library.illinois.edu/prescons/projgrants/grants/avsap/index.html
ヘリテージサービス事業部アーカイブ担当 小根山 美鈴
都内の大学史編さん室、独立行政法人の研究所でアーカイブズの業務に従事の後、現職に至る。日本アーカイブズ学会会員。